2009年8月10日月曜日

利島で終わった伊豆七島

 2009年8月8日、20時44分の電車に乗り浜松町へ。新橋で山手線に乗り換え浜松町へと一駅戻り、22時過ぎには竹芝桟橋に着いた。都内に入ってから、やけに目につく浴衣の女性。嬉しいながらも疑問だったが、その答えは竹芝桟橋にあった。納涼船だかの乗船券が、浴衣だと1,000円割引になるらしい。まぁ連れて行く相手のいない私には、全く関係ない特典だ。

 元々は小笠原諸島を狙っていた夏休み。空きがなかった為に妥協に妥協を重ねたのが、今回の伊豆七島である。そう私が妥協せざるを得なかった通り、竹芝桟橋は混んでいた。
 まずは乗船券を受け取らねばならないのだが、どうやらWEBで予約した際の明細をプリントアウトしなければならなかったらしい。しかし予約番号は控えてあったので、それを伝えて身分の証明できるもの(運転免許証)を見せて完了。
 乗船を待ちわびる人の行列。訳も分からず指定席の行列に並んだ。みな予約して乗るのだから、自由席など無いだろうに。というのは早とちりであり、その答えは乗船した先にあった。踊り場やらデッキやらにレジャーシートを敷き、雑魚寝する無数の人々。ムーンライトながらの現状を聞いた時も驚いたが、こんなタコ部屋的な世界が、この先進国・日本に存在する事が信じられなかった。そんな中、私は倍の値段である一等室へ悠々と向かう。育ちの違いというか、人としての質の差である。
  23時に竹芝を出航。喫煙所で一服し、デッキへ夜景を撮りに行った。東京タワーが見え、レインボーブリッジを潜り、伊豆諸島へと旅立つ。なんとも優雅なものではないか。
 やる事をやったら早々と船室へ。日の出を撮るため4時には起きたいし、そもそも退屈なので床に着いた。同室にお子様連れの家族がいたので、消灯が早かったのは都合が良かった。
 それにしてもこの船。雑魚寝もそうだが、24時を過ぎても通路ではチビッコが騒がしく、風紀的に最悪である。既に竹芝桟橋で思った事だが、小笠原諸島に一度は行きたいので後一回は我慢するが、それ以降は二度と利用したくない。次に伊豆諸島へ行くとしたら、下田からか飛行機にしよう。
  8月9日、4時前に目覚めて日の出を撮りにデッキへ行った。しかし雲に覆われ日の出は見れず。薄暗い中、船は大島に着いた。ここから先、利島と新島は天候によって上陸不可になる。後で聞いた話だが、前日、台風8号の影響で西からの波が強く、ちょうど西側に桟橋のある新島は船が着けなかったとか。
  6時半、時間通り利島に到着。宮塚山だけで出来ている様な小さな島”利島”。その島らしい島っぷりに惹かれたものの、集落より上の部分はガスに覆われていた。海上の空には青空も見えるのに、何故ここだけ雲でもないガスがかかっているのだ。
 ダイビングショップ兼民宿のお迎えを受け、ショップに立ち寄ったあと民宿で朝食を摂った。それから1時間程してドルフィンスイムに出航。島を一周したもののイルカはおらず、「自然の生き物なんてこんなものさ」とホエールウォッチングの教訓を思い出していたが、二週目に入って間もなく、イルカは埠頭のかなり近くにいた。特に潜行する訳でもないので、私はウェットスーツを着ずにダイブ。そこにはクラゲがウヨウヨいて、正直イルカどころではなかった。おそらくだが、肌を露出している事がクラゲを呼び寄せてしまったのかもしれない。まぁ刺されなくて何よりだ。
 「イルカと一緒に泳ぐ」そんな素敵な事にはならなかったが、それでもかなりの至近距離で4頭のイルカを見る事が出来たのだ。日常では想像もできない体験である。

 一旦ショップへ戻り、ダイビングの支度をして再度海へ。台風の影響でうねる中、潮の止まったポイントへ向かう。そうしていざ潜行と思いきや、私は嘔吐した。この荒波のせいか、予想もしなかった船酔いである。他のダイバーとガイドには潜ってもらい、私は船の上で寝転がっていた。寝不足、消化不良、一人だけ素人である緊張、要素はイロイロ考えられるが、とにかく船酔いである。
 一本目のダイブが終わった後、ショップに戻って昼食を摂った。陸に上がればこっちのものだが、これも半分程しか喰えず、日焼けがてら横になっていた。

 1時間以上の休憩の後、二本目のダイブへ。港内でのダイブという意見もあったが、亀が見れるかもしれないという事で、桟橋と桟橋の間のうねりの無いポイントへ向かった。桟橋を一本越えるだけなので、港からの距離は非常に短い。
 8ヶ月ぶりのダイビング。ライセンスを取って初めてのダイビング。足を引っ張らないか非常に不安である。潜行直後は呼吸が乱れたものの、一度勘を取り戻してしまえばこちらのものである。何も起きなければ・・・。
 途中でガイドが立ち姿勢で停止したので、私は浮上するものと勘違いして浮上。ただでさえ沈むのは苦手なので、これが焦り第一弾。それがキッカケだったのか、右足のフィンが取れそうなのに気づいた。なんとか直そうとしたら足が吊りそうになったのが、焦り第二弾。足を吊らせる事なくフィンを直す事は出来たのだが、呼吸は乱れ、体力は余計に消耗し、もう上がりたい気分だった。船に戻れば船酔いの再来。とにかく装備を外し、姿勢を楽にして何とか耐えた。
度の付いていないマスク。
けっきょく濁っていた海。
特に見所の無かったダイブ。
 初めてのボートダイブの感想は、ずばり”最悪”である。冬の沖縄でヌクヌクと潜っていた頃が懐かしく感じた。とはいえ相手は自然である以上、コンディションの善し悪しにケチは付けられない。とりあえず本日の教訓を挙げると、
・酔うからボートダイブはしない
・まず器材をある程度は揃えよう
・記憶を取り戻す為の講習を受けよう
・体が覚えるまで継続的に潜ろう
こんなとこだろう。しかしお金のかかるレジャーなので、来年、いや再来年ぐらいになってしまうかな。来年はキャンプ道具にお金をかけたいし。
  後片付けも終わり、17時前には民宿へ。荷物を置いて数分休んで、何も無い利島の南部へと歩き出した。

  利島には平地などなく、前述した通り宮塚山だけの島である。桟橋のある北側にしか集落はなく、他は椿畑とか、とにかく人は住んでいない。そんな島をグルリと回ろうと西側から攻めたのだが、やはり何もない。

  1時間程して南部唯一の見所”南ヶ山園地”に着いた。ここの展望台からは御蔵島すら見えるらしいが、このガスった天候では式根島まで見えただけでも感激だった。


 南部唯一の見所”南ヶ山園地”、ここはその展望の善し悪しで全てが決まる。まだ新しい雰囲気のある場所ではあるが、人の踏み入れた雰囲気がかなりしない。それもその筈、展望の良い箇所は1ヶ所だけで、他にもベンチはあるが何も見えない。
  時間&天候的に諦めた宮塚山山頂へのトレッキングも、登山道入り口をチェックしたところ、人の通った気配がまるでしない。ガスに覆われた天気と重ね、かなり寂しい気持ちにさせてくれた。

 島東部を歩いて宿へ向かうも、こちらの方がガスが濃い。”ガス””ガス”と何度も書いているが、その正体がこれではないかと思わされる箇所を3,4度見かけたからだ。陽も落ち始め、誰もいない畑の土から上がる煙。炎が上がる程ではないものの、明らかに地面で火が燻っていた。これが人為的なものなのか、自然の為せる業なのか、恐らく後者なのだろうと思い、ただただ見守るだけだった。
 ちなみに、島東部にも展望の良い場所がある。だが、ここからの景色はそれこそガスに覆われ、死後の世界にでも来た気分にさせてくれた。
 19時15分頃、民宿に帰ってきた時には完全に暗くなっていた。こんな天気なので、星を見る事も出来ない。 夕食を食べた後シャワーを浴びて、MacBookを開いたもののインターネットに接続できるわけではない。それどころか、Softbankが駄目なのか、iPhoneに限って駄目なのか、携帯も圏外である。ただ実際、民宿の人は携帯を持っているし、ホームページだって持っているので、環境がまるで無いわけではない。

 何もない島ではあるが、天気が良ければそれなりに楽しめるだろう。天気の良い日に、午前は1ビーチダイブ、午後は集落と島の散策、そんな計画だと良いかもしれない。下田〜神津島〜式根島〜下田、そんな旅をする日があれば、天気次第では利島に立ち寄っても良いかと思う。

 8月10日、2時半頃に一度目が覚めた。外から少し激しい雨の音が聞こえる。この雨雲が無事通り過ぎ、4時間後には新島へ出航だと思いつつも、そう信じきれない自分がいた。どうにかネットに繋いで天気予報を見れないかとiPhoneを開くと、たまに反応の良い時があった。友人からのメールに返信するにも、室内を右往左往して電波の入りが良い場所を探しまわった。北側(港側)が開けていると電波の入りが良い事に気づいたのは、5時頃一階ロビーに下りた時の事だった。
 この先が心配で二度寝をする気にもなれず、テレビを点けてみた。幸いにも天気予報が頻繁にやっている。そして伝える。台風9号の出現を。四国南部に現れたそいつは進路を東に向け、私の日程を舐めていくかの様だ。とはいえ天気は変わり易いもの。新島へ渡ってしまえばどうにかなるのではないか、とこの時は思っていた。

 朝5時半を回っても、迎えのガイドは来なかった。6時にならねば船の運航状況は確定しない。むしろ欠航する勢いの雨なので、半ば諦め気味で部屋で待っていた。
 寝坊してきたガイドに言われた台詞は「一階で待っていてくれれば・・・」的なものなのだが、むしろ私は5時から一度はロビーで待っていたのだ。
 利島港待合室に着き、新島行きの乗船券を受け取った。個人的には「行ってしまえばどうにかなる」というノリである。しかし、そんなノリを打ち崩すような情報をよこすガイド。私が悩み出すと「お客さん次第ですから」と返される。この先もイロイロ予約している以上、計画を変えるのも楽ではないので、新島へ行ってしまおうと思ったわけだ。
 いろいろ考えた末、新島と大島の宿をキャンセルし、このまま東京へ帰る事にした。熱海や下田へ渡る手もあるのだが、船が出せるか否かは誰にも分からない。そうして乗船券を買ってみれば、次の選択肢があったらしい。一つは、このまま朝の便に乗って神津島へ行き、その船に乗ったまま東京へ向かうというもの。乗船時間はとにかく長い。もう一つは朝の便が帰ってくるのを待って、昼頃乗り込むもの。昼に乗れるかどうかは怪しいものである。
 最終的な結論は、このまま神津島方面の大型客船に乗り、それに乗ったまま竹芝桟橋に帰る方。理由はそれなりにあるが、一番の理由は「お前らウザイ」である。こちらが何かを決めれば余計な情報を渡し、悩んで助言を求めると「それは御本人次第ですから」と見捨てる。確かに決断するのは本人なので良いのだが、とにかく急かしやがる。「どうしますか?」「どうしますか?」って、俺の決断次第だと言うなら黙るか立ち去れ。
 もう一度は訪れても良いかと思っていたが、今はむしろ沈んで欲しい。
  船は6時半に利島を出航し、新島へと向かった。雨脚も新島に近づくにつれ穏やかになり、少し晴れ間が見えた程だ。縦に長く、高低差のある新島。この島をレンタサイクルで一周しようという計画は、少し無理があったかもしれない。モヤイ像もある事だし、いずれ訪れたい島である。
 元は新島と地続きだった式根島に至っては、かなりの晴れ間が見えていた。利島で強雨を味わった私と、この式根島の天気に浮かれた観光客とでは、台風9号に対する危機感がかなり違うのだろう。
  式根島を出航するに辺り、かなりの遅延があった。理由は知らないが30分以上遅れての出航。神津島に向けて出航すると、激しい揺れと雨が襲って来た。少し気持ち悪くなり、上等席へのキャンセル待ちを予約した。そう、私は行きに散々馬鹿にした指定無しの二等席=雑魚寝組である。
 新島に着いた頃、雑魚寝組がかなり減っていたので、神津島に着いてから船内通路に場所を取れば良いと思っていた。しかし、いざ神津島で場所取りに向かうと、私と同じく神津島まで乗ってそのまま東京に戻ろうとする人が、既に多く乗船していた。もちろん神津島でも急増。もはや大型客船は”避難船”と呼ぶに相応しい状態なので、私を含む乗客たちを”難民”と表そう。
 10時20分頃、船は神津島を出航した。この時すでに式根島の欠航は確定。まぁこの調子で置き去りにして欲しいものである。私の掴まる蜘蛛の糸は、既に定員オーバーなのだ。
新島を出て利島へ向かう途中、雨がかなり激しくなった。手すり側に座る若者たちは必死にバリケードを作り、家族連れの団体は必死に床を拭く。私は自分の荷物が守れれば良いので、少し濡れたレジャーシートを折り畳み、その上に荷物を置いただけ。台風を前にした雨に対してデッキで休んでいるのだから、抵抗したところでイタチごっこである。
 しかし、その努力が報われたのは2組の団体だった。私の知る限り、それから雨水の浸入があったのは一度だけ。3匹のコブタの内、1匹だけが狼に負けてしまったのだ。

 必死に生きる雑魚寝組の世界で、私は幸せなど感じられないと思っていたが、半ケツ・生脚・透けPと、なかなか目のヤリ場に困る世界だった。
 悔しいかな、船は帰りも利島に停まった。「島が沈んだ」ぐらいのイベントが欲しいものである。
  徐々に増えてきた難民は、大島で爆発的に膨れ上がった。これまでとは比較にならない人数が乗り込んで来ていたが、デッキで雑魚寝する人数に変動はほとんど無かった。大島を出てキャンセル待ちも発生。これは指定席のほとんどが大島組に取られていた事を意味する。大島組は乗船客の数が多い事もあり、キチンとした乗客率が高かった。
 我が輩は狼に負けた豚である。そんな豚にも人の心はあり、自分のスペースを譲ったり、レジャーシートを譲ったり、それなりに親切心は見せていたつもりである。が、それらの行為が難民共への慰みに変わる時が来た。
 キャンセル待ちの発生である。しかし後は竹芝を残すのみ。一等だと追加料金5,000円を超えるので、一度は諦めたのだが、残りの時間を立ちっぱなしなのは辛く、場所を譲ってあげた難民共の前で疲れた様子も見せられないので、結局指定席を取りにいった。悩んだ分タイムリミット寸前。行ってみれば特二等が空いており、追加料金3,000円未満で乗客へと昇格である。
 雨も風もない、自分のスペースが確実にある、充電だって出来る。3匹のコブタ、最後に勝つのはやはり1匹だけである。そしてそのコブタこそ、”豚野郎”と蔑まされるに相応しい。
 大島から竹芝までの所要時間は4時間程。18時到着予定である。iPhoneも充電完了、Macbookも使い放題、これならいくらでも時間を潰せる。安心して眠る事も出来、快適な時間を過ごして予定通り到着。残り2日分の船についても欠航の連絡があり、予約していたものについては、キャンセル料もなく全て白紙となった。

 行きと同じく新橋乗り換えで地元へ帰り、途中でモスバーガーに立ち寄った。何気に本日最初の食事である。20時40分には自宅に到着。そして洗濯。台風9号が訪れる前に、少しでも乾かしたいものである。

 予期せぬ台風により大幅に変更を加えた今回の計画。新島と大島に立ち寄る事が出来なかったものの、一種のクルージングを味わったと思えば悪くもない。新島・式根島・神津島、海から見るにいずれも魅力を感じる事ができた。唯一訪れたのが伊豆七島一の退屈さを誇る利島なのは残念だが、いつか他の島々を訪れる為の下見に来たと思えば、それほど不満もない。

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