決行日は7月24日。富士宮口登山道で登り、お鉢巡りをした後、御殿場口登山道で宝永山火口を経由して富士宮口へ戻るコース。今回は相方が強力なため、単なる往復コースは避けてみた。
生涯4度目にして4年目となる今回の富士山登山。昼登山は初めてである。
その装備は過去同様に特別なものはなく、服装は限りなく普段着。吸水性や速乾性はまるで気にしていない。降水確率40%という事でカッパを持っていくが、ザックカバーに至っては大きなビニール袋に切り口を入れただけのもの。靴も例年通りバスケットシューズだ。
山頂でコーヒーを飲むべく、今回は新たにコンロを購入。それと共にケトルを買ったが、登山用のは高いので一般家庭で使われている所謂ヤカンを持参である。
7:30 相方の車で富士山へ出発。今朝まで続くと言われた雨は止み、かなり良い天気だ。しかし、問題なのは富士山の天気。いつもなら見える筈の富士山が、巨大な雲に覆われている。富士宮口五合目に近づく内に、辺りを霧が立ちこめる。「これは雲だ。その上に待つのは快晴だ。」そう言い聞かせ、私たちは荷物を減らした。
パーカー、カッパのズボン、リュックカバー、減らした物は以上。防寒としても雨具としても使えるカッパは、とりあえず持って行った。
9:15 こうして五合目を発った。新六合目までは近い。15分ほどで到着した。休憩の必要はない。そのまま新六合目を過ぎて間もなく、私たちは雲を越え、快晴の空を見上げた。
上には十合目の山小屋が見える。"雲の上は快晴"この予想が当たったのは嬉しいが、十合目までの道のりが見えた時は愕然とした。
新六合目から新七合目。この道のりは特に厳しい。空気の薄さや山を登ることに対し、まだ体が慣れていないからである。これを乗り越えるか否かが、富士山登山の鍵となるだろう。
10:05 苦しい道のりを乗り越え、新七合目に到着。ここで10分ほど休憩した。下には分厚い雲海が広がる。この様子では下界の景色が見れないが、これはこれで素晴らしい光景だ。
少し目を離すと姿を変える雲海。「この大自然の芸術を見る為に富士山を登っている」と言っても過言ではない。
10:45 元祖七合目に到着。新七合目までの道のりに比べれば、かなり楽だと感じた。
ここでも10分ほど休憩をし、次の八合目へと向かう。
11:20 八合目に到着。山小屋間の移動が約30分、悪くないペースだ。未だに続く快晴の空は、強い日差しを放っている。しかし下にある雲海が、たまに上に昇っては涼しい風を運び、とても快適な気候だ。
九合目へと向かう途中、私たちは雪を見つけた。部分的だが、かなりの雪が残っている。コースを外れ、雪を触る。この気候でも溶けないとは、不思議な光景であった。
その後、ショートカットをしつつ元のコースへと戻った。砂利に足を取られるよりも早く走る。そんな事をしてたら疲れた。
12:05 雪を見て間もなく、九合目に到着。余計な体力を消耗したので、休憩をとった。
気づけば既に九合目。残りも僅かだ。悪くないタイムだと思うが、その秘訣は、
・ゆっくりでも歩き続ける
・それで疲れたら歩みを止めるだけ
・やたらと座って休まない
こんなとこだろう。座って休んでも、回復できる体力なんてタカが知れてる。体が冷える前に登るのが吉だ。
12:30 九合五勺の山小屋に到着。朝食にシリアルとロールケーキしか食べなかった私は、かなり空腹だった。頂上は目前だ。しかし、そこまでの体力が欲しい。コアラのマーチが食べたい。この辺ならば、500円ほどするであろうか?
実際の値段は300円。それでも割高だが、私には安く感じた。その時の私にとって、コアラのマーチはそれ以上の価値があったのだ。
荷物を見ると、紙コップが邪魔だった。山小屋のオヤジに紙コップを使うか尋ねたところ、使うと答えたので渡した。この不便な山小屋に、私は紙コップを寄付したのである。
空腹は逃れたが、体力は回復していない。足腰も限界だ。前を行く相方について行けない。
登りの私たちに道を譲る下りの方々。気持ちは嬉しいが、その度にペースを上げねばならないのは、正直言ってキツい。
十合目までの道中、コースの近くに大量の雪を発見。それよりも魅力的だったのが、その奥に見える岩壁。岩の感じで言えばグランドキャニオン。本物を生で見たことは無い。
13:10 遂に十合目に到着。所有時間は約4時間。十合目とは思えぬほど気候が良い。未だに私はタンクトップだった。
さすが平日、さすが日中と言うべきか、夜登山とは登山客の量が圧倒的に違う。見渡すだけで20人程度だろうか。
傾斜のない道は快適で、休む間もなく私たちは移動し始めた。お鉢巡りをしながら、昼食を食べる場所を探すために。
山小屋を工事する土方たち。仕事で富士山頂に来るのは、どういう気分なのだろう?彼らは毎日通うのか?それとも泊まりで作業するのか?そんな疑問を抱きつつも、工事の音が五月蝿いと感じた。
その音が聞こえぬ場所を求めて、お鉢巡りをする。初めて見る富士山の火口。かなり雪が残っている。これが昼登山の醍醐味かもしれない。
上方には富士山測候所。特に用は無いものの、お鉢巡りをする以上、避けて通ることはできない。もう登り坂は嫌なのに、砂利に足を取られながらも登った。早く昼食をとりたい。
富士山測候所に到着。ここから先は通行不能。恐らく雪のせいだろう。私たちのお鉢巡りは、叶うことなく終了した。
富士山測候所にある展望台。西は雲に覆われてるが、北は遥か遠くが見える。河口湖町かその先か?私たちは今、日本一高い場所にいるのだ! 富士宮十合目に戻り、昼食をとることにした。工事の音が止んでいる。彼らも昼飯らしい。
遂に登場!コンロとカップ麺。寒い頂上、多くの登山客、誰もが我らを羨むだろう。
そういうつもりだったのに、寒くも無ければ人も少ない。羨む者もおらず、むしろアイスが食べたい気分だった。
高度が高いだけあって、水の沸点が低い。猫舌の人間には、丁度良い温度かもしれない。カップ麺を食べ、コーヒーを飲み、十分な休憩もとったところで、私たちは下山を開始した。
14:50 富士宮口十合目から御殿場口十合目へと向かった。距離は全く離れていない。だのに雰囲気は全く違う。人気は無いし山小屋も閉鎖している。富士宮口十合目との違いに戸惑った。
急な斜面で岩だらけの富士宮口登山道とは違い、緩やかな傾斜の砂利道が延々と続く御殿場口登山道。下に見えるのはジグザグに折り返す登山道のみ。下りる事は苦じゃないが、上を見上げると全く進んでいない気がする。
前には下山客が1人。登山客はまるでいない。富士山マラソンの参加者か?走る人はチラホラ見える。なんとも凄い体力だ。
赤土だけの世界に道が一本。なんとも退屈な光景だ。岩陰へと続く登山道。あの影に山小屋があるのだろうか?
確かにあった。八合目の看板が立つ物体が。昔は山小屋だったのだろうか?御殿場口登山道の悲惨さを訴えている。
15:35 八合目の山小屋に着いた。御殿場口登山道に九合目はないようだ。下に見えるのは、やはり延々と続くジグザグ道。いくつか建物が見える為、今までよりはまだ面白みがある。
15:50 次の山小屋である砂走館へと向かう途中、またもや廃墟を発見した。この荒んだ空気。なんとも寂しい登山道である。
16:00 砂走館に到着。七合目だと思っていたが、それはまだ先らしい。御殿場口登山道の山小屋で働く人々は、かなり暇なことだろう。
かなり荒廃したイメージのある御殿場口登山道だが、トイレだけは綺麗である。私の見た三ヶ所のトイレは全て、まだ新しいと思われるバイオ・トイレだった。
16:10 七合目の日ノ出館に到着。さあここからが本番だ。走り六合から宝永山を抜け、富士宮口へと戻らなければならない。誤って御殿場口五合目へ行こうものなら、車のところに戻るのが大変になる。
雲が上へと昇っていき、私たちの視界を遮る。ただでさえ迷わないか不安なのに、この霧が一層不安にさせてくれる。
大砂走りを下る。経験者である相方は、登山靴ゆえ問題ない。バッシュの中に砂利が溜まり、一昨日ツメが割れた右足中指を圧迫する。
滑るだけあり進行速度は速い。ここを気持ち良く下りるには、登山靴とスパッツは欠かせない。
立ちこめる霧、というより私たちは雲の中にいた。走り六合からの分岐点を見逃さず、いざ宝永山へと向かったが、登山道を雲が多い隠す。周りを見渡せば白。とにかく真っ白な世界。
最初の分岐点にはコースを示す看板があった。私たちは、ただそれに従うだけだ。周りに人は一切いない。しかし道には人の通った形跡がある。それを頼りに進む私たち。ヘリコプターの音が聞こえる。私たちを救出しにきてくれたのか?そして発見できずにいるのだろうか?
真っ白な世界、転々と生える植物、随所に見える巨大な岩、そして遥か彼方へと続く道。「これが天国へと続く道か・・・」そう思わせる光景だった。
地面スレスレにある雲。手を伸ばせば届きそうだ。まぁそんなことをしなくとも、私たちは既に雲の中にいるのだけれど。
17:00 いっそう濃くなる霧の中、私たちは3つのベンチを発見した。「この先にあるのは三途の川か?」そう思わせる光景だった。
案内板があったので、それを頼りにしようと見ると、分かったことは現在地。ここは宝永第一火口。
現地案内はあれど、道先を示す表示はない。この霧の中、私たちは行く先を見失った。
留まるわけにはいかない。雲の中だけに水滴がまとわりつく。携帯電話は圏外だ。時間も遅い。暗くなる前にここを抜けないと、本当に遭難しかねない。
相方が道を示した。上り道だけに腑に落ちないが、止まっているより良いだろう。
何分ほど進んだだろうか?その道が富士宮口登山道へと続くことが分かり、私たちは胸を撫で下ろした。
17:20 富士宮口六合目に到着。
17:30 富士宮口五合目へと帰還。こうして私たちの富士山登山は終わった。
所有時間は8時間15分。この道のりでこの時間、悪くないタイムであろう。
御殿場口登山道を下っている時は、とてつもない退屈さに襲われたが、総合的に見ると、あれはあれで味があった。
霧の中から始まり、快晴の中を頂上まで登る。初めて見る富士山火口、初めての山頂カップ麺。退屈な御殿場口登山道、クライマックスに相応しい宝永山登山道の悪夢。
経験者2人だからこそ楽しめたルートではないだろうか?初めての富士山がこれだったなら、二度と登ろうとは思うまい。
疲れ果てた我々は、帰り道で体力回復を図った。立ち寄ったのは、御殿場のステーキハウス"ギンザ花まさ館"。一度行ってみたい店だった。
この値段でこのサービス。お気に入りにはならないが、悪くはないと思う。また"いつか"来ようとも思えた。
望んではいたが、とにかく日焼けした今回の登山。頭にタオルを巻いてたせいで、私の顔はツートンカラー。風呂に入るのは恐ろしいので、シャワーと半身浴で済ます。
日焼けのせいか風邪をひいたのか、私の体温は上昇していった。熱は2,3日で下がったものの、次に待ち受けるのは日焼けとの戦いだった。
肩の痛みは取れず、水ぶくれは肥大化していった。毎日肩を冷やし、いくつかの民間療法を試し、水ぶくれが無くなるまでに1週間、完全に脱皮するのにさらに1週間を要した。
経験者から言わせてもらうと、富士山で日焼けしようなどと思わぬことだ。
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